容積率オーバーの物件を売却したい!

売却しようとする物件が容積率オーバーだったらどうなるのでしょうか。物件が容積率をオーバーしている場合、その理由にはいくつかのパターンがあります。この記事では、容積率オーバーの原因を探ったうえで、容積率オーバーの物件をスムーズに売却する方法について解説します。

容積率とは何か

最初に容積率の定義を押さえておきましょう。容積率は、延べ床面積の敷地面積に対する割合です。たとえば各階200平方メートルの10階建てビルがあれば、延床面積は2,000平方メートルです。このビルの敷地面積が500平方メートルだとすれば、次の式によって計算します。

2,000平方メートル÷500平方メートル=400%

建物の延べ床面積が、敷地面積の4倍あるので400%ということになります。

制限される容積率は都市計画決定されますが、前面道路の幅が狭いと、さらに厳しい容積率制限になることがあります。計算式は用途地域によって、次のようになります。

住居系用途地域は「前面道路の幅員(m)×4/10」
その他の用途地域は「前面道路の幅員(m)×6/10」

たとえば指定容積率が800%の商業地域で、前面道路の幅員が4mだとしたら、「4m×6/10=2.4 → 240%」によって240%しか建てられないことになります。

なお道路には、2項道路のように現に4mに満たない幅員のものもありますが、制限容積率計算においては、4mとして計算をします。

容積率オーバーの物件が存在する理由

コンプライアンスが問われる今日においても、容積率オーバーの物件は少なからず存在することを不思議に思う人もいるかもしれません。それには、いくつかの理由がありますので紹介していきましょう。

都市計画決定以前から存在していた

容積率制限に関する規定が施行されたのは1971年です。これを受けて各都市で都市計画決定をして容積率を定めましたから、概ね最初の指定は1973年頃になります。これ以降各都市で順次指定をしていきました。この指定が以前から存在していた建物の中に、結果として指定容積率よりもオーバーなってしまったものがあったのです。

ダウンゾーニングがあった

容積率が最初に指定された頃は、日本では右肩上がりの成長をしていた時代でした。このため高層ビルや高層マンションを誘導するための容積率指定が盛んにおこなわれました。

しかし時代の変化とともに、人々は繁栄だけをもとめるのではなく、静かな環境にも関心を示すようになりました。このため、快適な都市環境を目指す観点から、一部自治体では、以前指定した容積率よりも厳しい制限の容積率に変更するようになりました。

このように指定容積率が引き下げられたエリアでは、容積オーバーの建物が存在するのです。

なお、容積率指定以前から存在していたものやダウンゾーニングによって容積率オーバーとなった物件は、いわゆる「既存不適格建築物」と呼ばれるもので、「現行の基準が適用されない」として建築基準法に明文化されています。したがって、増築等をしない限り適法な建築物として存続できるのです。

違反による容積率オーバー

本来あってはならないことですが、残念ながら違反によって容積率オーバーをしている建築物も存在しています。

違反建築物には本来住宅ローンが融資してもらえないはずですが、たとえば、いったん検査済証を取得した後に、容積率の対象にならない駐車場を無断で部屋に変更するといった悪質なケースもあります。

また一戸建て住宅においても、リビングを吹き抜けとして申請していながら、完了検査を受けた後に吹き抜け部に床を張るケースもあります。

容積率オーバー建築物を適合させることはできないのか

既存不適格建築物は増築や大規模な修繕ができないという不自由さがあります。また住宅ローンを融資してもらう際にも、既存不適格で適法な建物だという説明を理解してもらえず、融資が不可になるケースも見受けられます。

こうした容積率オーバーで既存不適格扱いになる物件を現行基準に適合した建築物にする方法について解説していきましょう。

マンションは共用廊下、階段、エレベーターに着目する

マンションの共用廊下や階段は、建築基準法が改正されたことによって1998年から容積率の対象面積に算入されないことになりました。またエレベーターも以前は各階ごとにシャフト内の面積を算入していましたが、2015年から1フロア分のみが算入されることになりました。

これにより既存不適格の扱いになっていたマンションが、知らない間に適格建築物になっていたということは十分あり得ます。

こうした見直しはほとんどのマンションで実施されていません。しかし、もし売却しようとするマンションが既存不適格扱いで不利な扱いを受けているとしたら、この見直しによって価格アップする可能性があるのです。

ただし銀行側も、共用廊下や階段の面積を差し引くと適格になるという理屈がわかっても、なかなか容易に融資をしてくれません。なぜなら、オーソライズされた機関が承認したものではないため、真偽が図りかねるからです。しかし、本格的な対応をすることで、マンションの価値を高めることになるのですから、試算をしてみる価値は大いにあります。

適格なマンションとしてオーソライズするには

それでは容積率適合物件になった事実を、誰が見ても分かる形にすることはできないのでしょうか。

ひとつの考え方ですが、たとえばマンション敷地の片隅に簡易な倉庫を増築する計画をして、建築確認申請済証を取得するという方法があります。既存建物の面積としてマンションの面積が記載されるので、実際に倉庫を建てて検査済証まで取得すれば、立派な適格マンションとして誰もが認めることになります。

建物の一部を駐車場や駐輪場に改修する

駐車場や駐輪場は、全体の延べ床面積の5分の1以内であれば、容積率の面積に算入されません。このため、1階の部屋として使用していた部分を駐車場や駐輪場として改修することで、容積率を下げることができます。

他にもある容積率を低減させる要素

駐車場や駐輪場の他にも容積率に算入されないものがあるので紹介をしましょう。

  • 防災のための備蓄倉庫……防災用のグッズを保管する倉庫であれば、全体の床面積の50分の1までは容積率に算入されません。
  • 蓄電池の設置部分……床に据え付ける蓄電池の設置部分は、全体の床面積の100分の1までは容積率に算入されません。
  • 貯水槽を設ける部分……全体の床面積の100分の1までは容積率に算入されません。

また住宅の地階部分も全体の床面積の3分の1以内であれば、容積率には算入されません。

まとめ

容積率オーバーの物件は、一戸建ての住宅ではほとんどありませんが、マンションなどでは、あり得るケースです。マンションを売却する際に、既存不適格物件だと、購入希望者が躊躇ったり、住宅ローンの融資が受けられなかったりという不利な一面があります。

しかし、けっして再建築不可の物件ということではなく、建て直した際に以前の規模のものが建てられないという難点があるに過ぎないのですから、十分に資産価値が見込めるものなのです。

既存不適格のマンションの売却に際しては、マンション所有者全員の課題として、対策に取り組むことが重要です。

なお、本記事の対応策は、既存不適格建築物を対象にしたものです。違反行為によって容積率オーバーした物件は、いかなる手立てをしても違反建築物のままですので、役所の指導に従うほかにありません。